第6回:「ミラーズ・クロッシング」(1990)
監督:ジョエル・コーエン、製作:イーサン・コエーン、出演:ガブリエル・バーン他
★コーエン兄弟の、ひと味もふた味も違うマフィア映画。
| アメリカ禁酒法時代、マフィア全盛期。市長も警察署長も傘下に置いたアイルランド系マフィアのトップ、レオ(アルバート・フィニー)と彼の右腕トム(ガブリエル・バーン)。レオにはヴァーナという愛人がいたが、一方トムもヴァーナを密かに愛していた。ところがヴァーナの弟であるバーニー(ジョン・タトゥーロ)が賭博で八百長試合の情報を流して自分の懐を温めていたことが発覚し、ヴァーナを愛するあまり客観的な采配がとれなくなっていたレオと、イタリア系マフィアのキャスパー(ジョン・ポリト)は、バーニーの処分を巡り対立することになる。両マフィア間で戦争が勃発するのは時間の問題だった。その中でトムは、ボスの愛人ヴァーナを得るため、そして自分を守るため、人生最大の賭けに出る。 |
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コーエン兄弟と言えば、今、映画史上最も才能ある兄弟映画製作者として注目される二人です。クレジット上では監督が兄ジョエル、製作が弟のイーサン、脚本はふたり共著ということになっていますが、実際は監督も製作も脚本も全てふたりで行っているとのことです。まだ無名だった女優ホリー・ハンターの初主演作品でもあるコーエン作品二作目「赤ちゃん泥棒」を皮切りに、そのサクセスストーリーは始まります。特筆すべきはカンヌ映画祭での彼らに対する評価の高さで、ジョエルは史上初三度も最優秀監督賞を受賞しています。彼らの作品の大きな特徴は「フィルム・ノワール」の影響にあるといえます。このフィルム・ノワールといわれる映画群には、画面における光と闇のコントラストや、退廃や孤独がベースにあるといった特色がありますが、そんなことをちょっと頭の片隅に置いて彼らの作品を見れば、面白さも深まるかもしれません。(フィルム・ノワールについて詳しく知りたい方は、加藤幹郎著『映画ジャンル論 ハリウッド的快楽のスタイル』の一読がオススメ)
私生活では、兄ジョエルはコーエン兄弟作品の常連であるフランシス・マクドーマンドが妻であり、公私ともに素晴らしいパートナーです。
そんな”映像の魔術師”コーエン兄弟の特集第1回は彼らにとっての三作目「ミラーズ・クロッシング」をピックアップ。
ガブリエル・バーンが好きな私は、彼が主演しているだけでこの映画は見る価値があると思うのですが、この彼が演じるトム役は始終殴られっぱなしなのです。頭脳明晰で誰も思いつかないようなシナリオで事を運ぼうとするトムが、愛情表現は下手だし、賭博には滅法弱かったり、最後のツメが甘かったり、そして殴られまくったり、と、流石コーエン兄弟の人物の描き方です。
この作品を”マフィア映画”というジャンルで見ようとすると拍子抜けしてしまうでしょう。あくまでマフィアは舞台であり、この映画のテーマではありません。まず、音楽が違います。マフィア映画なら”ダニー・ボーイ”で機関銃を乱射したりしないでしょう(笑)
見所は人間模様。コーエン兄弟はこの人間模様を一枚の複雑に織り込まれた布に見立て、糸を一本一本織り込んで仕上げていきます。主人公トムは、すぐ感情的になる二人のボスとは対照的に、無口で頭が良く、”何か”を企んでいるのはわかるのですが、なかなか先が読めてきません。勿論彼の想定外の事件も起きるので、一層解らなくなってきます。というわけで、観ている間は行く末にハラハラドキドキし続ける羽目になり、かなり疲れます(笑)
冬枯れの森の中を帽子が飛ぶシーンがオープニングに出てきます。この映像で、最初からコーエン兄弟のヤル気を感じることになります。帽子は劇中で何度もシンボルとして扱われていますが、このシーンには背筋がゾクッとします。骨太の男の美学も、コーエン兄弟の手にかかると、どうにもスタイリッシュで叙情的になります。
あとは、やはり”ダニー・ボーイ”のシーンが最高。詳しくは言えませんが、高級ガウンを身にまとって機関銃を乱射しているお方が一人いらっしゃいます。ターミネーターみたいです。大筋のストーリー以外にも見せ場がたくさんあるのがコーエン兄弟らしくてまたいいです。少ししか登場しませんが、フランシス・マクドーマンド(市長の秘書役)やスティーブ・ブシェミ(ミンク役)が登場するのも嬉しいところ。とにかく色々なエピソード満載で、ハリウッド的に言えば地味な映画なのかもしれませんが、仕組まれた構成は非常に”派手”で飽きません。少し演出がオタクっぽいのは否めませんが、その凝り性っぷりも私がコーエン兄弟作品を愛する理由です。
いよいよ今月10日、コーエン兄弟最新作『ディボース・ショウ』(原題
INTOLERABLE CRUELTY)が公開されます。『オー、ブラザー!』のジョージ・クルーニーとキャサリン・ゼタ=ジョーンズが共演のラブ・コメディらしいですが、コーエン兄弟がラブコメを作るなんて、それだけで興味津々です。また、本牧名画座の第一回でご紹介した『シャイン』のジェフリー・ラッシュや『バーバー』のビリー・ボブ・ソーントンも出演とのことです。どんな映画になるのでしょう・・・
公式サイトはコチラ→「ディボース・ショウ」http://www.divorce-show.jp/
2004.4.2
文:ゴミ ナポ